胎児化説
【引用1】
『L.ボルグの説であるが、人間の進化を説明する仮説として、「胎児化説」というものがある。この説は、簡単に説明すると、要するに、人間は猿の胎児であるという説である。(中略)人間は、大人になってからも、猿でいえば胎児的といわれる特徴を多分に保持している。』
(ものぐさ精神分析、性の倒錯とタブーp84)

【引用2】
「胎児化説 たいじかせつ foetalization」
オランダの解剖学者 L.ボルクによって提唱されたヒトの進化に関する学説 (1926)。ヒトの成体には類人猿の胎児にみられる諸特徴が認められる。例えば,無毛性である,皮膚や目の色素が乏しい,あごが突きでていない,大後頭孔の位置が前方にある,脳重量比が大きい,頭蓋の縫合が存続する,骨盤や女性大陰唇の形態が類似していることなどが挙げられる。すなわちヒトは,これら霊長類の胎児では一時的にすぎない形態を終生保持している。ボルクはこのことから〈ヒトは胎児化したサルである〉と誇張して表現したため,大きな反響を呼んだ。この説はそれまで支配的であった E.H.ヘッケルの反覆説 (生物発生原則) とは根本的に相反するものであったため,反覆説に反対する人々からは大きな支持を受けた。しかし,ボルクは胎児化の起こる要因を内分泌系の変化であると断定したため,変異や環境を重視する多くの進化学者たちから批判を浴び,現在では少なくとも,その要因論は否定されている。しかし,ボルクの着想自体は現在でも一部の学者の支持を得ており,胎児化という言葉は発育遅滞現象という言葉に置き換えられて,その生理学的解明が進められている。 ⇒ネオテニー

ネオテニー neoteny」
幼形成熟pedogenesisともいう。動物が幼形を保ったまま性的成熟に達し生殖を行う現象。生殖器官に比べからだの発育が相対的に遅れるために起こるもので, 幼生生殖とは異なる。メキシコサンショウウオAmbystoma mexicanum (アホロートルaxolotlと呼ばれる) は原産地のメキシコの泉や湖ではえらをもち,変態しない状態で生殖するが,1865 年にパリの植物園で飼われた個体が変態し,水がとぼしいなどの環境では変態して陸に上がることが知られた。つまり原産地のものは幼生形すなわちネオテニー形であり,これに甲状腺ホルモンを補給すると変態が起こる。サンショウウオおよびイモリの仲間 (有尾両生類) には終生えらをもつなど幼生的な形態を示す種がいろいろある (いずれも北アメリカ産でテキサスホライモリTyphlomolge rathbuni, マッドパピーNecturus,えらを体内にもつアンヒューマAmphiuma means)。これらはネオテニー形が固定したものと解釈することもできる。このようなことからネオテニーはしばしば進化の要因として注目されている。原始的と思われる多足類の幼形には体節が少なく足は 3 対のものがあるなどのことから,昆虫類は多足類のネオテニー形とされる。腸鰓 (ちようさい) 類 (ギボシムシの類) は棘皮 (きよくひ) 動物のネオテニー形といわれることがあり,これは両者の幼生の比較およびそれぞれでの幼生と成体の比較にもとづいている。ヒトの進化に関する L.ボルクの胎児化説もネオテニー説の一種である。日本の進化学者では徳田御稔 (《進化論》1951,その他) がとくにネオテニーに注目をはらった。

「ボルク Lodewijk Bolk 1866‐1930」
オランダの解剖学者。アムステルダム大学医学部に学び,1898 年から 32 年間,同校の教授となる。専門は末梢神経,とくに脳神経の解剖学,頭蓋と骨盤の比較解剖学,体節解剖学,歯の形態学,霊長類の筋学と発生学,内分泌学など多岐にわたり,その業績は後の比較解剖学や神経学の発展に大きな影響を与えた。解剖学標本を大量に収集したことでも有名である。後年は生物やヒトの進化について強い関心を寄せ,人類の進化に関する学説〈胎児化説〉や,哺乳類の歯の進化に関する学説〈集中説 concentration theory〉を発表した。これらの理論は当時の学会でひじょうな反響を呼んだ。 《人類成立の問題》 (1926),《脊椎ョ物比較解剖学》 (1931) などの著作がある。
(「ネットで百科@Homehttp://ds.hbi.ne.jp/netencyhome/


【解説】
人間の本能が壊れた事の進化論的根拠として、この説を使っている。